イチョウは、秋になると黄金色に染まる美しい葉で知られ、日本では街路樹や寺社の境内などで広く親しまれています。
しかし、その見慣れた姿の奥には、驚くべき進化の歴史が隠されており、「生きた化石」と呼ばれる理由がそこにあります。
イチョウは、約1億5千万年前のジュラ紀に繁栄していた植物で、当時は複数のイチョウ属の種が地球上に存在していました。
恐竜が闊歩していた時代、イチョウの仲間は広く分布していたとされ、化石も世界各地から発見されています。
しかし、その後の地球環境の激変や氷河期などを経て、ほとんどのイチョウ属は絶滅。
唯一生き残ったのが、現在私たちが目にする「Ginkgo biloba」ただ一種です。
このように、太古の姿をほぼそのまま保ち続けていることから、イチョウは「生きた化石」と呼ばれるのです。
イチョウの葉は独特の扇形をしており、古代の化石と現代のイチョウを比較しても、その形状にほとんど違いがありません。
また、イチョウは「裸子植物」に分類され、種子がむき出しの状態で形成されるという、原始的な植物の特徴を持っています。
これは被子植物が主流となった現在では非常に珍しい性質です。
さらに、イチョウは「一科一属一種」という分類に属し、近縁種が存在しない孤高の植物でもあります。
これは進化の過程で他の種が絶滅し、イチョウだけが生き残ったことを意味しています。
イチョウが長い年月を生き延びることができた理由には、以下のような強い生命力と適応力が挙げられます。
・病害虫への耐性:イチョウは多くの病気や害虫に強く、都市部でも元気に育ちます。
・大気汚染への耐性:排気ガスなどにも耐えるため、街路樹としても重宝されています。
・繁殖力の高さ:雌雄異株でありながら、種子(銀杏)を通じて安定した繁殖が可能です。
これらの特性が、過酷な環境下でもイチョウが生き残ることを可能にしたと考えられています。
イチョウはその生理活性成分にも注目されており、葉から抽出されるエキスは血流改善や認知症予防などの効果があるとして、医薬品や健康食品にも利用されています。
また、銀杏は食用としても親しまれ、日本や中国、韓国などで独自の食文化を形成しています。
イチョウは、ただの街路樹ではなく、地球の歴史を生き抜いてきた壮大な生命の証。
その姿を見上げるとき、私たちは太古の地球とつながっているのかもしれません。